海抜1400㍍、びょうびょうたる山なみが広がる。トドやエゾの樹海の彼方に岩手富士や駒ヶ岳の姿も美しい。藤七温泉は八幡平の大景観を一人占めにしたような自然の中にあった。
宿は二階建ての木造で、おせじにも立派とはいえないが、山の宿らしいたたずまいだ。何よりもいいのは温泉で、5ヵ所の浴場は全部木造り。湯ぶねによって泉質がいくらか異るのか、温泉の乳白色が違っていた。それにしても、東北人の好みそうな温泉らしい湯である。大きな金精さんの浮んでいる湯ぶねもあった。
霧と冷気が窓の外に流れる温泉につかっていると、日ごろの憂うつなどどこかヘふきとんで、頭や体がほぐれてきた。入口の戸があいたのでふりむくと、宿のパートのおばさんたちが、ドヤドヤと裸で入ってきた。
「いいさべ」いささかこちらがびっくりして視線をそらす始末。おばさんたちは1日の仕事を終え、これから里へ下ってゆくのだろう。何とも東北らしい、素朴そのものの世界である。