産山（うぶやま）村は、由布院から阿蘇山に通じるやまなみハイウエイの雄大な展望の開ける地にある。
阿蘇五岳を正面に見る村内には、環境省指定名水百選の一つ｢池山水源｣や、
熊本名水百選の｢山吹水源｣があり、広大な原野などの自然景観に恵まれた村である。
産山温泉とは、馴染みのない温泉と思っていたが、それもそのはずで村おこしの一環として、30数年前から、
農業のかたわら奥さんとおばあちゃんとで細々と民宿を営んでいた森本さん一家が、温泉を掘り当てたのは平成18年のことである。
奥阿蘇の宿「やまなみ」は、やまなみハイウエイをわずかに逸れた田園風景の素朴な山里、
こんもりとした小さな雑木林のなかに民芸調の静かな佇まいを見せている。
主人の幸隆さんは器用な人で、民宿から旅館業へ切り換える為の造作を、大工さんに頼んだものの、黙って見ていられず客室棟から、
浴室棟や浴槽、雑木を移植しての庭造りまで、人任せにできず自らが手がけたもので、工夫のあとがそこかしこに見える。
自慢の温泉は加水も加温もしない源泉かけ流し、適温のアルカリ性単純温泉が、趣の異なる4つの家族湯、交替制となる内湯と露天風呂にあふれている。
宿の自慢は女将手作りの漬物にもあった。
人里離れたこの村は、古くから保存食としての漬物作りが盛んであったようで、この宿も山菜採り専門の従業員をかかえているほど。
その日に樽からあげられる30種類前後の旬の漬物は、塩加減、歯触りとも一品一品が絶妙で食欲をそそる物ばかりである。
食卓に並ぶ、郷土色豊な天然素材の山里の味にもてなしの心がこもっている。